研究内容
医療AI・デジタルヘルス研究
ビッグデータ医科学・健康医療DX講座(奥野恭史教授主催)では、AI、データサイエンス、オミックス解析を活用し、疾患のバイオマーカー探索、創薬標的の同定、疾患発症予測、予防医療の実装に取り組んでいます。
疾患予防を目的としたAIアプリの開発に取り組んでいます。糖尿病、高血圧、脂質異常症、メタボリック症候群、慢性腎疾患などの疾患について、3年後の健康状態を可視化し、個人の健康価値観や行動特性に応じた保健指導を支援するシステムを構築しています(図1)。阪急阪神ホールディングスとの共同研究として特定臨床研究を進めており、個別最適化された予防医療の社会実装を目指しています(jRCTs052230135)。

もやもや病では、RNF213遺伝子変異だけでは説明できない発症リスクに着目し、臨床情報とオミックスデータを統合した解析を行っています。その結果、GATA2遺伝子を含むlipid-leukocyte module(脂質・白血球関連モジュール)の上昇が、発症リスクに関わる可能性を見出しました(図2)。遺伝素因、炎症、脂質代謝、免疫応答を結びつけることで、もやもや病の新たな病態理解を目指しています。

特発性肺線維症では、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究により、臨床症状、血液検査、プロテオーム解析を統合したネットワーク解析を行い、新たなバイオマーカー候補を特定しました。臨床所見と分子ネットワークを組み合わせることで、病態の説明可能性を高め、創薬につながる標的探索を進めています(図3)。

難治性血管疾患・iPS細胞研究
もやもや病は、脳の太い血管が徐々に細くなり、脳梗塞や脳出血の原因となる病気です。私たちは、この病気がなぜ起こるのかを明らかにするため、遺伝子、免疫、腸内環境、血管細胞の働きに注目して研究を進めています。これまでに、もやもや病の家系解析から、発症に関わる重要な遺伝子として RNF213 p.R4810K を特定しました。この遺伝子変化は、もやもや病だけでなく、片側性のもやもや病、もやもや病に似た脳血管障害、さらに冠動脈疾患、肺高血圧症、腎血管狭窄など全身の血管病とも関係することが分かってきました。私たちは、こうした病態を RNF213関連血管症 という概念として提案しました。また、もやもや病と診断される前の脳血管狭窄が、時間の経過とともにもやもや病へ進行することがあることを示し、RNF213変異がその進行リスクに関わることを報告しました。これらの結果から、もやもや病と連続性をもつ病態が存在し、広く「もやもや病スペクトラム」として捉えられる可能性があります。さらに、患者さんのご家族や一般住民を対象とした研究から、症状がない段階でも血管の変化を早期に見つけられる可能性が示されています。
一方で、RNF213変異を持っていても発症しない人が多く存在します。そのため私たちは、発症を左右する要因として、腸内細菌、免疫反応、脂質代謝にも注目しています。特に、GATA2遺伝子を含む脂質・白血球関連の分子群が、発症リスクや重症度に関わる可能性を見出しました。GATA2は2型炎症に関与する分子として知られており、好酸球性喘息でもその発現上昇との関連が示されています。さらに、喘息ともやもや病では、小児期に多く、成人以降では女性に多いという好発年齢・性差のパターンに類似点がみられます(図)。
これらの知見は、RNF213変異に加えて、2型炎症を含む免疫・炎症反応が、もやもや病の発症や重症化に関与している可能性を示唆しています。さらに、患者さん由来のiPS細胞やゲノム編集技術を用いて、もやもや病の血管細胞モデルや3次元血管オルガノイドを作製し、病気の仕組みを実験室で再現する研究を進めています。RNF213の働きを詳しく理解することで、もやもや病の早期診断、発症予測、そして新しい治療法の開発につなげることを目指しています。
脳腫瘍先端治療・臨床研究
脳腫瘍、とくにグリオーマは、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせても再発しやすく、いまだ治療が難しい病気です。私たちは、脳腫瘍がなぜ発生・進展し、治療に抵抗性を示すのかを明らかにするため、免疫応答、腫瘍微小環境、細胞老化、代謝ストレスに着目した研究を進めています。
これまでに、脳神経外科(荒川芳輝教授主催)でグリオーマに対する免疫遺伝子治療の開発に携わり、腫瘍を攻撃する免疫応答を高める新しい治療戦略の研究を行ってきました。現在は、低酸素や虚血などのストレス環境に対する脳腫瘍の適応機構を、免疫、炎症、細胞老化、代謝変化の観点から解析し、再発や治療抵抗性の仕組みの解明に取り組んでいます。また、小児脳腫瘍にも力を入れており、髄芽腫や脳幹グリオーマを対象として、腫瘍の分子病態の解明や新規治療法の開発を進めています。患者由来検体や実験モデルを活用し、治療標的となる分子や免疫環境の解析を行っています。
基礎研究で得られた知見を臨床へ橋渡しするため、脳腫瘍患者さんの臨床情報、画像データ、手術検体を収集したデータベースを構築し、バイオマーカーの探索や病態解明にも取り組んでいます。さらに、多施設共同臨床試験を通じて新しい治療法の有効性・安全性を検証し、基礎研究の成果を実際の診療へ還元することを目指しています。これらの研究を通じて、脳腫瘍の再発や治療抵抗性の仕組みを明らかにし、免疫療法、遺伝子治療、分子標的治療などの新しい治療法の開発と、一人ひとりの患者さんに最適な個別化医療の実現を目指しています。
